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広島高等裁判所 昭和25年(う)155号 判決

被告人

川本尚述

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人上山武の控訴趣意第一点について。

(イ)  本件起訴状によれば、所論のように公訴事実として第一、第二の二つに分けて犯罪事実が記載せられてはいるけれども、その罰條の記載には併合罪の規定の記載はなく、直ちに所論のように右記載自体をもつて、当然本件が併合罪の関係になる二個の犯罪事実として起訴せられたものと解しなければならぬものでもなく、本件各醪を製造するに当り、被告人の使用した材料の量を明らかにするため、これを別々に記載したものとも解せられないことはない。しかして単一の意思の発動に基き単一の法益を侵害した場合にはこれを一個の犯罪と解すべきところ、本件記録に徴すれば、本件は同日に、しかも製造した場合も同番地内の近接した場所で、同一場所と認定するを相当と認められる場所であつて、単一の意思の発動に基いたものと認められ得るし、その侵害法益も単一であるから、原審はこれを包括的に観察して、単一の犯行と認定したものと解せられ、

(ロ)  しかも、本件犯行が併合罪の関係にあるものとして起訴せられたものとしても、これを裁判所が一個の犯罪と認定するについては、いわゆる訴因罰條の追加変更等の手続を要せず、職権で、その旨認定することが出来るものと解するから、原判決が本件公訴事実を一個の犯罪と認定し、併合罪の規定を適用しなかつたのは相当で、何等所論のような違法はない。のみならず一個の犯罪と認めた原判決の認定に対し、これを併合罪であるとする所論は、被告人に対して不利益な論旨であるから、適法な控訴理由とはならない。論旨は理由がない。

(弁護人上山武の控訴趣意)

第一点 原判決は法律の適用に誤があるから破棄しなければならない。

原判決は被告人は政府の免許を受けないで昭和二十四年十一月二十一日頃呉市海岸通七丁目十番地において、麦麹及び水を原料として醪約一石八斗を製造した単一の犯罪事実を認定しているが、

起訴状によれば、

被告人は政府の免許を受けないで、

第一、昭和二十四年十一月二十一日呉市海岸通七丁目十番地裏蒸溜機小屋において麦一斗九升、麹一斗七升及び水を原料として醪八斗を製造し、

第二、同日同番地金沢方裏倉庫において、麦二斗五升、麹二斗六升及び水を原料として醪約一石を製造し

た二個の犯罪事実を訴因としている。

しからば、本件公訴事実は原判決認定の如く単一な犯罪なりや否やを審究するに、元来犯罪の個数につき学説判例区々にして困難な問題であるが、犯罪構成要件を一回充足すれば一罪であり、二回充足すれば二罪と解するを正当として本件は同日であるが、場所は近接しておるとしても別個な場所で製造方法、製造石数も異なり、たとえ同一罪名に触るる行為であつても、犯罪行為は明らかに二個あり、これがいわゆる数個の行為が包括的に一個の構成要件に該当する場合として単純一罪と解せられる場合(即(イ)一つの構成要件が二個のそれぞれ犯罪となるべき行為を結合せる結合犯、(ロ)構成要件の性質上同種の行為の反覆を予想する集合犯、(ハ)数個の実行行為が包括的に単一構成要件を充足せしむる接続犯等)には該当しない。

即ち包括的一罪ではあり得ない。

しかも、現行刑法は連続犯の規定を廃止しているから、本件は明らかに二個の犯罪があり、この二個の犯罪を起訴していると解するを相当とする。しからば原判決はこれを単一犯罪として併合罪の規定を適用していないのは、刑事訴訟法第三百八十條所定の事由即ち擬律の錯誤がありといわなければならないから破棄を免れない。

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